柿渋とは、青い未熟の渋柿の搾汁液を発酵熟成させたもので、平安時代より、染料や塗料、民間薬等として日本人の日常生活を支えてきたものです。 柿渋全盛期の江戸時代の話になりますが、江戸の町中には渋屋と呼ばれる店が軒を並べていました。 当時は店頭で柿渋を水で希釈して販売されていましたので、その水加減で利益が変わることから水商売と揶揄されていました。 ちなみに、2000年頃まではネットでも、渋屋○○等と屋号や社名に渋屋と付く商店、企業を目にする事がありましたが、その経歴を見てみると、やはり創業は江戸時代で柿渋を商いとしていた、と掲載されていました。 でも、流石に最近では見掛けなくまりましたがね。 やがて、明治から大正時代へと移り代わり、新たに登場したカフェなる店でもアルコールを扱う店が増え始め、更には、女給さん達が接客するスタイルが登場します。 このようなカフェは特殊喫茶と呼ばれ、従来のカフェは順喫茶と呼ばれて区分されていた様ですが、やがて、時代と共にカフェと言えば特殊喫茶を指す様になっていきます。 今でも、アルコールを扱わない街の喫茶店が順喫茶の看板を掲げているのは、その時代の名残ですね。 当時、女給さん達が、ウイスキーの水割りを作って接客するので、その濃い薄いで売り上げが変わることから、ある人が、「ウイスキーを水で薄める君たちも、柿渋を水で薄める渋屋と同じ水商売だなあ」と言い、これがウケて、徐々に水商売と呼ばれ始めた様です。 特に関東大震災により、東京が大きな打撃を受けた為、カフェ(特殊喫茶)が全国各地に散らばったのにつれて、大正時代後半から、水商売という呼び方も全国的に広り、いつしか定着していった様で、昭和時代も終戦後まで続きました。 2016年放映されたNHK朝の蓮ドラ「とと姉ちゃん」の中でも、終戦後間もない混乱期が描かれた時には、高畑充希さん演じる主人公常子の女学生時代の大親友で、阿部純子さん演じる上流階級のお嬢様だった綾が、戦争未亡人となり生活の為に派手な服装でカフェの女給として接客しているシーンが登場しますが、確か店の看板は特殊喫茶となっていたと思います。 やがて、その後の高度経済成長時代に入りと、アルコールを伴うカフェはキャバレーやナイトクラブとなり、女給さんはホステスさんと呼ばれるようになります。 この様にして、ホステスさんの職業が水商売と呼ばれる様に受け継がれてゆきました。 確かに、ボトルキープしているお客さんには濃い目の水割りを造れば、ボトルが速く空になって新しいボトルで売り上げが上がりますし、ハウスボトルの場合には、薄めの水割りを造ればコストは下がりますからね。 更に、昭和30年頃からは、化粧の濃い女性や派手な服装の女性を水商売風と表現されるようになり、略してお水と呼ばれ、お水系と表現された時代もありました。 刑事物のテレビドラマの中でも、女性の人相を表現するのに、水商売風とかホステス風というキーワードがよく登場しました。 そして、1997年から2002年まで、タイトル名もズバリ「お水の花道」なるホステスの世界を描いた漫画が、講談社発行の女性向け漫画誌KISSに連載され、大変な人気シリーズになりましたね。 これは原作者城戸口静香さんの実体験を描いたものだとされていますが、1999年には、六本木の高級クラブ「CLUB PARADAISE」を舞台に、財前直見さん演ずるホステス明菜を主人公にした連続テレビドラマもフジテレビで放映されて、大変な話題になり、なんと、2001年には、新お水の花道として第二弾までが放映される程でした。 この様に、2000年頃までは、水商売と言う言葉は、主にクラブのホステスさんを指していたのです。 それが時代と共に変化して、いつしかホステスさんではなく、女性スタッフさんと呼ばれるようになり、今ではホステスは完全に死語状態で、代わりに、水商売という言葉は、飲食業全般を指す言葉としてに広く使われるようになった様です。 以上、如何だったでしょうか? 諸説の中でも、水は流れる不安定なモノだからそれになぞられて、収入の安定しない不安定な商売を云々と言う説が一般的ですが、考えてみれば、そもそも収入が安定した商売なんてものは、いつの時代にもこの世に存在しませよね。 逆に言えば、安定した商売のことは、果たして何商売と言ったのでしょうか? 例えば、テキ屋稼業・露天業も不安定な商売ですよね。 北海道から沖縄まで日本全国を、当に流水の様に流れ流れて商売していた、あの有名なフーテンの寅さんの口から、「水商売」って言葉は聞いたことがありません。 口癖は「渡世人よ」とか「ヤクザな稼業よ」と言うセリフです。 対峙語としては「堅気な稼業」ってことになりますか。 今では、飲食関係だけではなくサービス業全体とか、芸能界、プロスポーツ業界までもが水商売に含まれるなんて言われてますから、もう、これは現状に合せた完全に後付けだと思われます。 又、泥水商売とか泥水稼業が語源との説もありますが、これはハッキリ言えば現代の性風俗産業を指していますし、そもそも、清潔感が大切な飲食業に、よりによって泥水はないでしょう。いかにもイメージが悪過ぎます。水茶屋説にしても、茶屋が性風俗営業化して水茶屋と呼ばれた様ですし、現在でも、花柳界でお茶屋として存続しています。そもそも、考えてみれば江戸時代にも、お酒を振舞う飲食店が存在していますから、わざわざ水茶屋から・・・って気がしませんか。 この様に、全てが今一、これといった具体的な説得力に欠けます。 又、見方を変えれば、例えば、八百長の語源には八百屋の長兵衛さんが存在しますし、相撲界の谷町筋にも、力士をタダで治療したと言われる大阪谷町筋の医者が存在する様に、水商売にも何かがあると考えるのが普通ではないでしょうか。 その点、実際に水商売と呼ばれていた渋屋が存在する訳ですから、こんな説得力のある話しはありません。 以上、総合的に判断すれば、この柿渋語源説は、江戸時代から昭和時代までの歴史的な裏付けもあり、一番具体的で説得力があるのではないでしょうか。 ウイスキー水割りのグラスを傾けながら、じっくりと蘊蓄(うんちく)を傾ければ、必ず受けること間違いないと思います。 是非、お試しあれ。 尚、2018年12月には、一般社団法人日本水商売協会なるものが設立されておりますが、そちらのホームページには、水商売の語源・由来についての説明はありませんでしたが、設立理念の中心は、ナイトワークする女性達(ホステスさん)の社会的地位向上にあるようです。 やはり、水商売=ホステスなる職業なのです。 参考までに、協会のホームページへのリンクを貼り付けて置きますので、興味のある方は覗いてみてください。 一般社団法人日本水商売協会のホームページ 柿渋雑学豆知識 柿渋プラネットTOPページ サイトマップ 許可無く転写・複製・転記しないようにお願い致します。
Copyright(C)柿渋プラネット AllRights Reserved |